「腕時計の時刻合わせ、どのくらいの頻度でされていますか」。そう尋ねると、多くのお客様が「月に一度くらい」とお答えになります。クォーツでも機械式でも、わずかなズレは少しずつ積み重なっていくものです。
ところが、その常識をくつがえす時計がグランドセイコーから登場しました。スプリングドライブ U.F.A.は、ぜんまい駆動でありながら年差±20秒という精度に到達したムーブメントです。1年で誤差が約20秒、つまり平均すると月差±3秒ほどに収まります。
U.F.A.は「Ultra Fine Accuracy(超高精度)」の頭文字です。2025年に発表されたキャリバー9RB2を皮切りに、2026年にはダイバーズ向けの9RB1へと広がりました。この記事では、年差という新しいものさしから始め、精度を支える仕組みまでを順にひもときます。さらに、搭載モデル「樹氷」SLGB003とUshio 300 Diverの違いまで、具体的にご紹介します。
スプリングドライブ U.F.A.とは

まずは「U.F.A.」という呼び名が何を指すのかを整理します。あわせて、これまでの「日差」「月差」と何が違うのかも見ていきましょう。
U.F.A.=Ultra Fine Accuracy(超高精度)
U.F.A.とは「Ultra Fine Accuracy(ウルトラ・ファイン・アキュラシー)」の略です。日本語では「超高精度」と訳されます。グランドセイコーが、年差±20秒を実現したスプリングドライブに与えた新しい呼称です。
ここで前提を一つ確認しておきます。スプリングドライブは、セイコーが開発した独自の駆動機構です。ぜんまいを動力としながら、針の進みを電子的に制御するという独特の方式をとります。
グランドセイコーは、この技術を専用設計のキャリバーとして2004年に採用しました。以来、約20年をかけて精度を磨き続け、2025年に9RB2でU.F.A.へとたどり着いたのです。つまりU.F.A.は、長い歩みの到達点に位置づけられます。
なお、U.F.A.はムーブメントの精度を表す呼称であり、特定のデザインや素材を指すものではありません。年差±20秒に届いたスプリングドライブにのみ与えられる、いわば称号のような位置づけと考えると分かりやすいでしょう。
「年差」という新しいものさし
腕時計の精度は、これまで主に「日差」や「月差」で語られてきました。1日あたり、あるいは1か月あたりにどれだけ進む・遅れるかを示すものさしです。
U.F.A.が採用したのは、さらに長いスパンの「年差」という単位です。年差±20秒は、1年を通しての誤差が±20秒以内に収まるという意味になります。これを平均すると、月差±3秒ほどに相当します。
なぜ年差という表現を使うのか。それは、日差や月差で表すには誤差が小さすぎるからです。長い目盛りでこそ、その安定性が伝わるという考え方が背景にあります。
実用面でも、年差という精度は大きな安心につながります。時刻のズレを気にして頻繁に合わせ直す必要が、ほとんどなくなるからです。日々の暮らしのなかで「時計を直す」という行為そのものを忘れてしまうほどの精度といえます。
精度の系譜:月差から年差へ

年差±20秒は、ある日突然生まれた数字ではありません。スプリングドライブが歩んできた精度向上の延長線上にあります。ここでは、その系譜をたどります。月差±15秒からいきなり年差へ飛ぶのではなく、間にある「月差±10秒」の世代を押さえることが理解の鍵です。
9R65(月差±15秒・2004)から9RA(月差±10秒・2020)へ
グランドセイコーがスプリングドライブを専用設計で採用した初号機が、2004年の9R65です。精度は月差±15秒、日差に直すと±1秒相当でした。当時としても十分に高い水準です。
そこから一段進んだのが、2020年に登場した9RA系(9RA2・9RA5)です。9RAは月差±10秒、約120時間(5日間)のパワーリザーブを実現しました。ここで採り入れられたのが、9Fクォーツで培われた温度補正の考え方です。
温度補正とは、温度の変化で生じる水晶振動子のわずかなズレを、電子的に補う仕組みを指します。9RAはこの応用によって、9R65から精度をもう一歩高めたのです。
9RB2が到達した年差±20秒(≒平均月差±3秒)
そして2025年、9RAの先に現れたのが9RB2です。精度は年差±20秒、平均すると月差±3秒に相当します。月差±10秒だった9RAから、さらに数倍の安定性へと踏み込みました。
このように見ると、9R65(月差±15秒)→9RA(月差±10秒)→9RB(年差±20秒)という三段の階段が描けます。U.F.A.は、この積み重ねの先端にある到達点なのです。
ここで、各キャリバーの位置づけを表で整理しておきます。
スプリングドライブ 主要キャリバー対照表
| キャリバー | 精度 | パワーリザーブ | 駆動方式 | 登場 |
|---|---|---|---|---|
| 9R65 | 月差±15秒(日差±1秒相当) | 約72時間 | 自動巻(手巻つき) | 2004年 |
| 9RA2 / 9RA5 | 月差±10秒 | 約120時間(5Days) | 自動巻(手巻つき) | 2020年 |
| 9RB2 | 年差±20秒(平均月差±3秒相当) | 約72時間 | 自動巻(手巻つき) | 2025年 |
| 9RB1 | 年差±20秒(平均月差±3秒相当) | 約72時間 | 自動巻(手巻つき) | 2026年 |
年差±20秒をどう実現したか

ここからは、U.F.A.が高精度を生み出す仕組みを掘り下げます。鍵を握るのは「水晶振動子」「温度補正」、そしてスプリングドライブという土台です。
3か月エージングの水晶振動子+温度補正IC(真空パッケージ)
精度の出発点になるのが、心臓部の水晶振動子です。U.F.A.では、約3か月という時間をかけて振動子をエージング(慣らし)し、特性が安定したものを選び抜いて使います。じっくり時間をかけることで、長期的な安定性を引き出すという考え方です。
さらに、温度によるズレを補う温度補正ICを組み合わせます。水晶は温度で振動数がわずかに変わる性質を持つため、それを電子的に打ち消すのです。これらは外気の影響を受けにくい真空パッケージに収められ、安定した動作を支えます。
1日540回の温度補正と、緩急スイッチ
U.F.A.の温度補正は、止まることなく細かく働き続けます。1日あたり540回というペースで温度を測り、補正をかけ続けるのです。気温が動いても、針の歩みをこまめに整えていく仕組みといえます。
加えて注目したいのが、スプリングドライブで初めて備わった緩急スイッチです。これは精度を微調整するための機構で、状態に応じた繊細なチューニングを可能にします。地道な工夫の積み重ねが、年差±20秒という到達点を支えているのです。
スプリングドライブだから可能な高精度(セイコー独自機構)
これらの精度は、スプリングドライブという土台があってこそ成り立ちます。先にも触れたとおり、スプリングドライブはセイコーが開発した独自機構です。ぜんまいで動きながら、針の進みを電子的に制御します。
機械式のような香箱・ぜんまいを持ちつつ、テンプの代わりに電子制御を組み合わせます。この独特の構造が、滑らかな運針と高い精度を両立させます。グランドセイコーは、この機構を2004年に専用設計として採り入れ、U.F.A.まで磨き上げてきました。
なお、ぜんまい駆動式の腕時計としては、年差±20秒は世界最高(※2025年4月セイコー調べ)の精度水準とされています。電池を使わずにここまで到達した点に、技術の積み重ねが表れています。
9RB2と9RB1の違い

U.F.A.には現在、9RB2と9RB1という2つのキャリバーがあります。混同されやすいのですが、駆動方式が違うわけではありません。9RB2・9RB1はどちらも自動巻(手巻つき)です。違いは「日付の有無」「パワーリザーブ表示の位置」、そして「搭載モデル」にあります。
9RB2:日付つき・エボリューション9(樹氷 SLGB003)
9RB2は、U.F.A.の初号となるキャリバーです。日付表示を備え、石数は34石を数えます。エボリューション9 コレクションの「樹氷」SLGB003に搭載されています。
エボリューション9は、視認性・装着性・耐久性を突き詰めたグランドセイコーのデザイン文法です。ドレッシーな装いにもなじむ薄型・小径のケースに、9RB2は収まります。普段使いから少し改まった場面まで、幅広く付き合えるムーブメントといえます。
9RB1:日付なし・PR表示をダイヤル側へ(Ushio 300 Diver)
一方の9RB1は、9RB2をベースにダイバーズウォッチ向けへと最適化したキャリバーです。日付表示をなくし、パワーリザーブ表示をダイヤル側へ移すことで小型化を図りました。石数は33石です。
この設計によって、本格的な防水性能を備えながらケースを薄く抑えることができました。ダイバーズウォッチでは、視認性とともに薄さや軽さも実用上の大きな価値になります。9RB1は、年差±20秒という精度をその領域へ持ち込んだキャリバーといえます。
搭載するのは、新シリーズのUshio 300 Diver(SLGB023/SLGB025)です。
U.F.A.搭載モデル紹介
ここからは、U.F.A.を搭載する3つのモデルを具体的に見ていきます。それぞれのダイヤル表情、サイズ感、そしてお求めいただける場所まで整理します。
SLGB003「樹氷」(9RB2/37mm/¥1,518,000)

エボリューション9 コレクションのSLGB003は、U.F.A.を初めて搭載したレギュラーモデルです。ダイヤルの愛称は「樹氷」です。シルバーがかった淡いブルーの地に、信州の樹氷をモチーフにした精緻な型打模様が広がります。秒針にはテンパーブルー(ブルースチール)が用いられ、凛とした表情を添えています。
外装にはブライトチタンを採用し、ステンレススチール比で約30%軽量です。ブライトチタンはセイコーグループの軽量チタン素材で、金属アレルギーが起こりにくい点も魅力とされています。ケースは横37.0mmと、9R搭載モデルでは最小級です。スーツの袖口にもすっきり収まります。
店頭でお試しいただくと、「思っていたより軽い」と表情が変わるお客様が少なくありません。年差±20秒の安心感に、ブライトチタンの軽さが加わります。この組み合わせが、毎日身に着ける時計としての魅力を高めています。なお、SLGB003のビジュアルには、グランドセイコーのグローバルパートナーである大谷翔平選手が起用されています。
SLGB003「樹氷」 基本スペック
| コレクション | エボリューション9 コレクション |
|---|---|
| キャリバー / 駆動 | 9RB2 / スプリングドライブ U.F.A.(自動巻・手巻つき) |
| 精度 | 年差±20秒(平均月差±3秒相当) |
| ケースサイズ | 横37.0×縦44.3×厚11.4mm |
| 外装 | ブライトチタン(裏ぶた:シースルー) |
| 防水 | 日常生活用強化防水(10気圧) |
| 価格 | 1,518,000円(メーカー希望小売価格・税込) |
| 販売チャネル | グランドセイコーサロン/ブティック |
SLGB023「Ushio Blue」(9RB1/40.8mm/300m/¥1,650,000)

SLGB023は、新シリーズ「Ushio 300 Diver」の一本です。ダイヤルの愛称は「Ushio Blue」です。Ushio(潮)パターンの型打ちに、広大な海と差し込む光を思わせるブルーのグラデーションが重なります。この表現の源流は、2022年のSLGA015「黒潮」にあります。
外装はブライトチタン、ベゼルにはブルーセラミックを採用し、120クリックの逆回転防止機構を備えます。ケースは横40.8mmと、グランドセイコーのダイバーズとしては最小・最薄クラスです。それでいてISO6425準拠の300m(空気潜水用)防水を確保しています。針とインデックスには緑のルミブライトが入り、暗所での視認性も高めています。
SLGB023「Ushio Blue」 基本スペック
| コレクション | エボリューション9 コレクション(Ushio 300 Diver) |
|---|---|
| キャリバー / 駆動 | 9RB1 / スプリングドライブ U.F.A.(自動巻・手巻つき) |
| 精度 | 年差±20秒(平均月差±3秒相当) |
| ケースサイズ | 横40.8×厚12.9mm |
| 外装 / ベゼル | ブライトチタン / ブルーセラミック |
| 防水 | 300m(空気潜水用・ISO6425準拠) |
| 価格 | 1,650,000円(メーカー希望小売価格・税込) |
| 販売チャネル | 正規販売店・ブティック・サロンで取扱可 |
SLGB025「Ushio Green」(9RB1/40.8mm/300m/¥1,650,000)

SLGB025は、Ushio 300 Diverのもう一つの表情です。愛称は「Ushio Green」です。グリーンのグラデーションが、浅瀬の透明感を映し出します。ベゼルはグリーンセラミックで、青のSLGB023とは対照的な爽やかさが魅力です。
キャリバーや防水、サイズ、価格はSLGB023と共通です。9RB1を搭載し、年差±20秒・40.8×12.9mm・300m防水・ブライトチタン・1,650,000円(税込)という内容になっています。一点気をつけたいのが販売チャネルです。SLGB025はサロン/ブティック寄りの流通で、一般の正規店では扱わない場合があります。
時計専門店ハラダは、徳島のグランドセイコーサロン認定店です。そのためSLGB003からSLGB025まで、U.F.A.全モデルを当店で実機確認いただけます。「気になっていたけれど近くで見られる店がない」というお客様には、ぜひ知っていただきたい強みです。
SLGB025「Ushio Green」 基本スペック
| コレクション | エボリューション9 コレクション(Ushio 300 Diver) |
|---|---|
| キャリバー / 駆動 | 9RB1 / スプリングドライブ U.F.A.(自動巻・手巻つき) |
| 精度 | 年差±20秒(平均月差±3秒相当) |
| ケースサイズ | 横40.8×厚12.9mm |
| 外装 / ベゼル | ブライトチタン / グリーンセラミック |
| 防水 | 300m(空気潜水用・ISO6425準拠) |
| 価格 | 1,650,000円(メーカー希望小売価格・税込) |
| 販売チャネル | サロン/ブティック寄りの流通(当店はサロンにつき取扱可) |
よくある質問

U.F.A.について、店頭でよくいただくご質問をまとめました。
Q1. U.F.A.とは何の略ですか?
Q2. 年差±20秒はどのくらいの精度ですか?
Q3. 9RB2と9RB1の違いは何ですか?
Q4. U.F.A.搭載モデルはどこで購入できますか?
Q5. スプリングドライブはグランドセイコーが発明したのですか?
まとめ

スプリングドライブ U.F.A.は、ぜんまい駆動でありながら年差±20秒に到達したムーブメントです。9R65から9RA、そして9RBへと続く精度の系譜の先端にあり、3か月エージングの水晶振動子と温度補正の積み重ねが、その安定性を支えています。
搭載モデルは、エボリューション9の「樹氷」SLGB003、そしてUshio 300 DiverのSLGB023・SLGB025です。9RB2も9RB1も自動巻(手巻つき)で、違いは日付の有無やパワーリザーブ表示の位置にあります。いずれもブライトチタンの軽さを備え、毎日の相棒にふさわしい一本といえます。気になる一本がございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。