あなたは一日の終わりに、時計を外してそのまま机に置いていませんか?
もしそうなら、あなたの愛するグランドセイコーは泣いています。
時計は、一日中あなたの肌に密着し、汗、皮脂、埃にまみれています。これを放置することは、雑菌を培養し、金属を腐食させているのと同じです。
「メンテナンス? オーバーホールに出すからいいでしょ?」
いいえ、数年に一度の入院(オーバーホール)よりも、毎日の歯磨き(セルフケア)の方が重要です。
今回は、誰でもできる、しかし効果絶大な「日々のケア」について解説します。
1. 基本にして奥義。「セーム革」で拭く

ケアの基本中の基本。それは「使ったら拭く」ことです。
ティッシュやタオルで拭くのはNGです。繊維が荒いため、ザラツ研磨の鏡面に微細な傷をつけてしまう恐れがあります。使うべきは「セーム革(鹿革)」または、時計専用のマイクロファイバークロスです。
帰宅したら、時計を外し、セーム革で全体を優しく拭う。これだけで、皮脂汚れが落ち、曇っていた輝きが蘇ります。
毎日拭いている時計と、拭いていない時計では、5年後の輝きが全く違います。
2. ブレスレットの黒い汚れ。その正体と洗浄法
夏場、シャツの袖口が黒く汚れた経験はありませんか?
あれは、ブレスレットの隙間に溜まった「皮脂、汗、埃」が混ざって酸化した汚れです。
この汚れを落とすには、「水洗い」が一番です。
(※もちろん、防水時計(10気圧防水以上)に限ります。革ベルトや非防水モデルはNGです)
水洗いの手順
洗面器にぬるま湯を張り、中性洗剤(食器用洗剤)を数滴垂らす。
時計本体を水につけないように手で持ち、ブレスレット部分だけを水に浸す。
ジャブジャブと揺らす。
これだけで、隙間から驚くほど黒いモヤが出てきます。最後に真水ですすぎ、タオルとドライヤー(冷風)で完全に乾かせば完了です。
月に一度はやってあげてください。
3. 歯ブラシは「柔らかめ」を使え。隙間掃除のコツ
どうしても落ちない隙間の汚れには、歯ブラシを使います。ただし、絶対に「毛先が柔らかいもの(やわらかめ)」を使ってください。硬い歯ブラシでゴシゴシ擦ると、鏡面仕上げの部分にヘアラインのような傷が入ってしまいます。
優しく、撫でるように。バックルの裏側や、ラグの隙間など、汚れが溜まりやすい場所を重点的に。
爪楊枝を使って、こびりついた垢を掻き出すのも効果的です(快感です)。
4. リューズ、回していますか? 固着を防ぐ習慣

クオーツ時計や自動巻き時計で、時刻合わせを長期間していない場合。リューズがサビて固まり、回らなくなることがあります(リューズの固着)。
これを防ぐために、月に一度くらいはリューズを空回ししてあげましょう。油を馴染ませるイメージです。特にねじ込み式リューズの場合、一度緩めて、締め直すだけでも効果があります。
「私は生きているよ」と確認するように、時々触ってあげることが大切です。
5. スマホの上に置くな! 現代の疫病「磁気帯び」
現代の時計にとって、水や衝撃よりも怖いかもしれない敵。それが「磁気」です。
スマホ、PC、イヤホン、iPadカバーのマグネット。これらに時計を密着させると、内部のムーブメントが磁石のようになり、精度が狂ってしまいます(進みや遅れが発生する)。これを直すには「脱磁(磁気抜き)」という修理が必要になります。
予防策は一つだけ。
「磁石の発生源から5cm以上離す」こと。
「家に帰って、スマホの上に時計を置く」
これが一番やってはいけない行為です。定位置を決めて、電化製品から離れた場所に保管する癖をつけましょう。
(※Vol.44で耐磁時計について詳しく解説します)
6. まとめ:手入れの時間は、愛着を育てる時間

面倒くさいと思いましたか?
でも、実際にやってみると、意外と楽しいものです。
ピカピカに磨き上げられた時計を眺めながら、
「やっぱり俺の時計はカッコいいな」
と悦に入る。
この自己満足の時間こそが、時計趣味の真髄です。
手入れをすればするほど、愛着は湧き、時計はそれに応えて美しい輝きを保ち続けます。今日から、寝る前の1分間、時計との対話の時間を作ってみてください。